小さな恋【完結】

「なぁ、真依子。本当はどうなの?さっきの先輩のこと好きなんじゃねぇの?」


校門を出たところで、大知はあたしの腕を離した。


あっ……。


その途端、大知の熱を失って無性に寂しくなった。


「別に……そういうんじゃないよ」


「本当は?」


痛いほどの視線感じて思わず俯く。


本当はね、一哉先輩を追ってこの桜丘高校に入学したんだよ。


一回会ってビビッときた一哉先輩に会うために、必死で勉強したの。


憧れの先輩と一緒にお昼を食べたり。


さっきだって、あたしの存在に気付いてくれて嬉しかったはずなのに。


……それなのに、どうしてだろう。


どうして、「好き」と胸を張って言えないんだろう。


どうして、あたしは……それを大知に知られたくないと思っているんだろう。



あたしは今まで、『好きな男の子』の名前を人前で口にしたことはなかった。


「あたしね、隣のクラスに好きな子がいるんだ~!!」


「え~!!マジで?!それって誰?!」


大勢の前でそう打ち明ける友達を見るたびに、すごい人だなぁと感心した。


あたしは、誰かを好きになることが恥ずかしかったのかもしれない。


今まで、心の底から大好きといえる人はいなかったけど、「かっこいい男の子」とか「スポーツのできる男の子」にはそれなりに惹かれた。


でも、その男の子達の名前を人前で口にするのは妙に照れ臭くて。


その人の名前を誰かに知られるのがすごく怖かった。


それ以上に、その相手に知られるのが怖かった。