「悪い!!遅れた!!」


ぼんやりと辺りを見渡していると、遠くの方から一哉が手を振って走ってきた。


目の前で立ち止まると、ゼェゼェと息を切らして肩を上下させる。


「大丈夫だよ。今来たばっかりだから」


「ホント、ごめんな。自分から誘ったのに。携帯忘れて家に取りに戻ってたんだ」


「そっか」


あたしが微笑むと一哉は額の汗を拭った後、あたしの手を優しく掴んだ。


「……行くか?」


「うん」


きっと今日で最後になる。


一哉と手を繋ぐのも、こうやって一緒に歩くのも。


そんな予感を感じながら、あたしは人混みの中に足を踏み入れた。