窓の外は暗い夜に包まれている。



いつも眺めている景色を眺めることが出来ず、彼女は深いため息をついた。



山と空の境目はどの辺りだっただろう?



冬が近づくにつれ、早々と黒く塗りつぶされた四角い世界を、ただただぼんやりと見つめ、しばらく物思いにふけっていた。




『仕事しよ。』




ふと我に返り、独り言を呟く。




多趣味な彼女は、特別な用がない場合は定時に帰り、その日の残りの時間を趣味に費やしている。



しかし今日は、まさにその日だった。



自由を奪われた彼女は、不機嫌そのもので、感情を隠すことなく再び仕事を始めた。




彼女の後ろでは、看護師がせかせかと走り回っている。



就寝前の薬を患者に飲ませ、寝かしつけるのに四苦八苦しているようだ。



彼女は気にも留めず、ナースステーションの隅にある机に座り、黙々と書類をまとめている。




彼女の仕事は、クラークと呼ばれる病棟の事務である。




朝から看護師に振り回され、午前中を棒に振った。



そのせいで、明日までに揃えておかなければいけない書類が、殆ど手付かずの状態で残っている。



それだけで、彼女の機嫌を損ねるのには十分であったが、どこからか流れてくる季節外れの生ぬるい風が、さらに彼女の機嫌を逆撫でした。




誰か廊下の窓を開けたのだろうか?




夜勤の看護師に声をかけようとしたが、日中の事を思い出すと、看護師と言葉を交わす気にはなれなかった。




奈緒子は、もう一度ため息をついた。