「…話がある」

まぁ座れ。と父さんは重い声で呟くように言った。

俺は二人と向かい合うようにソファに腰掛けた。

自然とからだが硬直し、身構える。

「…お前、卒業したら上京すると言っていたな」

父さんがゆっくりと口を開いて言う。

そうだ。俺は高校を出たら上京する。両親も認めてくれて、だいぶ前に決まっていたことだ。

それが今どうしたってんだ?

まだ卒業までに結構あるぞ?

「あぁ…」

不安の入り混じった声で答える。

「実はな、仕事の都合で東京に引っ越すことになったんだ」

……は?

どーゆーことだよ?

俺はそれで? と続きを促した。

「急に決まったんでな。出発は明後日、日曜だ」

え、日曜って夏祭りの日…

今年は既に香絵に誘われて約束していた。

「じ、時間は?」

「お前も最後に花火を見ておきたいだろうと思ってな。午後7時だ」

7時…ぎりぎり一緒に花火が見られる時間だ。

「そうか…分かった。準備しておくよ」

言いながら立ち上がって、自分の部屋へ行った。




バフンッ

「ふぅー…」

俺はベッドに仰向けに倒れた。

明後日か……ほんとに急なこった。

まぁ遅かれ早かれ、いずれこの町から出るのは変わらないんだ。

なら出来るだけ速いに越したことはない。

そのほうが俺のやりたいことに早く取り掛かれる。

俺が上京する理由は…夢を叶えたいから。

歌手になる夢を叶えたいからだ。