「そ、そんなわけないだろ!」



キースにからかわれてクリスは視線を反らした。



「クリスティアナ王女」



キースの声が真面目なものに変わる。



「っ!なにをそんな名前を言っているんだよ!」



「お前は紛れもなく王女だろう?」



「……そう思えないよ」



急にしおらしくなったクリスにキースの片方の眉が上がる。



「腕の治療もあるし、騎士たちが戻ってきたら城へ行くだろう?」



「戻りたくないって言ったら?」



戻りたくない。



戻れば知らない奴と結婚させられる。



「ここで一人の生活は無理だ 獣がうようよしているじゃないか」



「夜は出かけない」



「具合が悪くなったら?ケガをしたら?獣がここまで襲いに来たら?食料が無くなったら?一人暮らしが無理な理由は山ほどある」



「でも俺が城に戻れば、知らない奴と結婚させられる……」



キースはため息をついた。



結婚を無理強いするような陛下じゃないんだけどね。