――――――……
1日がもっと長ければいいのに。
そんなことを思ったのは生まれて初めてだ。
残された時間はあとどれくらいあるんだろう。
お母さんが生きられるのは、あと何日?
お母さんとあたしが一緒に過ごせるのは、あと何日?
今日も1日が終わろうとしてる。
「もう8時かぁ」
夜の8時。病院の面会時間が終わるので、そろそろ帰らなければならない。
「お母さん?お水飲む?」
「……いい」
今日は面会に来たときから、お母さんの様子がいつもと違う気がした。
さっきからお母さんは、ベッドの上で仰向けのまま動かず、ジーッと白い天井を見つめている。
「帰る前に足のマッサージしよっか?」
手や足を軽くマッサージしてあげると、お母さんはいつも喜んでくれる。
あたしがお母さんの足に触れると、お母さんは小さな声で言った。
「やめて……」
お母さん……。今日はあたしの顔、全然見てくれない。
いままで苦労してあたしを育ててくれたお母さんに、将来、親孝行するつもりだった。
でも、あたしにはもう、そんな時間は残されていない。
いましかなかった。
だから、いまあたしが出来る精一杯のことをお母さんにしてあげたいって思った。
毎日、お母さんに何をしてあげたら喜ぶんだろう、授業中もそんなことばかり考えた。
1日も無駄にはしたくなかった。
「お母さん、なにかして欲しいことない?」
そうあたしが聞くと、お母さんは声を荒げる。
「しつこいわね、ないわよっ!」
「ご、ごめん……お母さん」
あたしが謝ると、お母さんは目を閉じてしまった。
お母さんに喜んで欲しくて……でも、逆に嫌な気持ちにさせちゃった。
「じゃ……今日は帰るね」
お母さんは目を閉じたままで、返事をしてくれなかった。
あたしは静かに病室を出ていく。
「……ぐすっ……っ……」
こんなことくらいで泣くな……。
なんであたし……こんなに弱いんだろう。
もっと強くなりたいのに。
しっかりしなくちゃいけないのに。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)