――コンコン、ガチャ……。
「今日はお母さんの好きなミカンゼリー買ってきたよっ」
ベッドの上で横になるお母さんは、窓の外を見つめていた。
「凜……綺麗な青空ね」
今日の空は、灰色の曇で覆われている……。
「そ、そぉだね。スプーンどこだっけなー。ゼリー食べるでしょ?」
お母さんは窓の外を見つめたまま、首を横に振った。
「じゃあ、食べたい時に言ってね?」
ベッドの横のイスにあたしは座り、お母さんを見つめる。
お母さんは手を伸ばし、あたしの頬にそっと触れた。
「凜に大変な思いさせて、ごめんね……」
哀しそうなお母さんの瞳を見ると、胸が苦しくなる。
泣きそうになる。
「全然大変なんかじゃないよ?ゆっくりでいいから、元気になってね」
あたしの言葉にお母さんは少しだけ微笑んだ。
泣かない……泣いたらお母さんが変に思うじゃん。
「お母さんの足の爪伸びてるね。いま切ってあげる」
あたしは慌ててイスから立ち上がり、カバンの中から爪切りを探すフリをして、お母さんに背を向けた。
「どこかなぁー。爪切り……忘れてきちゃったかなぁ?へへっ……えーと、えーと……」
泣かない……。
泣くな……あたしのバカ……。
涙が落ちないように、下唇をぎゅっと噛みしめた。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)