「……なんかさ、つらいことがあったみたいなんだけど……でも咲下は大丈夫としか俺に言ってくれなくてさ」
「それは……橘に心開いてないからじゃね?」
「だよなぁ~。でも咲下がつらい思いしてるんなら、どーにかしてやりたい……」
横にいるくぼっちの顔を見たら、満面の笑みだった。
「ほんっとーーーに好きなんだな!咲下のことが」
「ちょ、声でけぇから!」
「あ、悪い」
くぼっちは両手で口元を押さえる。
「まぁ、でも……くぼっちの言うとおりだけど」
「くぅー照れてやんの!かわいいやつ!やっぱ恋するおまえ、愛おしいわぁ」
そう言ってくぼっちは、俺の髪をグシャグシャに掻きまわす。
「からかうなっつの」
「髪ボサボサー」
「おまえがやったんだろーよ」
笑顔のくぼっちをギロッと睨む。
「なぁ橘……咲下ってさ、誰か仲良い友達いたっけ?」
くぼっちに言われて考えてみるけど、すぐに浮かばなかった。
咲下と仲が良い友達って誰だろう?
くぼっちは話を続ける。
「咲下が元々ひとりでいるのが好きなのか、それはわかんねーけどさ。もし、何かつらいことがあったとしても、そーゆーやつが誰かに助けてって言うのって、簡単じゃないと思うけど」
雨の中で泣いていた咲下の瞳を思い出す。
「そもそも助けて欲しいと思ってるかどうかもわかんねーけどさっ」
「くぼっちの言うとおりかもな……」
「え?」
「きっと、咲下は俺に助けて欲しいなんて思ってないんだろーな」
だから何を聞いても、大丈夫だって……無理してでも俺に笑顔を見せるんだ。
「そんなんわかんねーじゃん?強がってるだけかもよ?だからさ……そばで見守っててやんなよ」
「そばで見守る……?」
「うん。咲下が手を伸ばしたとき、いつでもその手を掴んで、助けてあげられるように」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)