バスから降りると、冷たい雨があたしの体を濡らしていく。
“先生……お母さんはあと、どれくらい生きられますか……?”
“お母さんの余命は……2ヶ月……状態によっては2ヶ月も持たないかもしれません”
“そんな……そんなの……”
残された時間は、たったの2ヶ月だった。
あと2ヶ月で、お母さんが死んじゃう。
ひょっとしたら、それよりもっと早くに死んじゃうかもしれない。
お母さんが……この世界からいなくなっちゃう。
そんなの……そんなの嫌だよ……!
バス停から家までの道を歩いていく。激しく降りそそぐ雨に、髪も制服も全部びしょ濡れだった。
足が重たい……。
“凜さん、病気のことも余命のこともお母さんにはまだ話していません。いつ頃話そうか”
お母さんは、きっとこの現実を受け止められない。
お母さんは、そんなに強くない。
“先生、お母さんには何も話さないでもらえませんか?その……お母さんには胃潰瘍だって嘘をつくので……お願いします”
お母さんが悲しまないで済むなら、
あたしは嘘だって、なんだってつく。
“そうですか。実際に余命が短い患者さんの場合、本人には知らせないご家族もいます。もし考えが変わったり、悩んだときはいつでも相談してください”
“はい……わかりました……”
自宅アパートの前にある公園のベンチに座る。
制服のスカートのポケットから星砂のキーホルダーを取り出して見つめた。
助けて……。
雨に混じって、涙がこぼれ落ちていく。
助けて……。
うつむいて、キーホルダーをぎゅっと握りしめた。
「……うぅっ……っく……ひっく……」
誰か……助けて……。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)