「お母さん」
病室のベッドで横になるお母さんは、苦しそうに微笑む。
「凜……」
あたしはベッドのそばのイスに座り、お母さんの手を握りしめた。
「どこか痛む?」
「腰が痛くてねぇ……入院して寝てばかりいるせいかしら」
「看護師さん呼ぼうか?」
「いいのよ」
お母さんは、あたしの顔を見つめる。
「ねぇ、凜……それよりお母さんの検査結果、まだなのかしら……」
あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。
「あーうん……さっきね、先生から検査結果のこと聞いたよ?」
「え?それで先生はなんて……?もしかして、なにか悪い病気かなんかじゃ……」
「ううん!違うよぉ。やだなぁ、お母さんてば弱気になっちゃって……」
あたしは笑顔を見せた。
無理やりでもいい。お母さんの前では笑顔でいなきゃ。
「凜……先生はなんて言ってたの?お母さん、いつ退院できる?」
「い、胃潰瘍(いかいよう)だって。だから、しばらく入院が必要だって。もぉー、ちゃんと治して早く元気になってよね!」
「そう……胃潰瘍なのね……」
「いままでお母さん頑張りすぎたんじゃない?たまにはゆっくり休まないとダメってことだよ!ね?あたしは大丈夫だからさっ」
ベッドの上で、お母さんは顔を向こう側にむけて横になってしまった。
「お母さん……?」
「ごめんね、なんか疲れちゃったわ……」
そう弱々しい声で言ったお母さん。それからあたしの顔を見てくれなかった。
「そっか、わかった!じゃあ今日はもう帰るね?」
あたしは必死に明るい声で言い、笑顔を作った。
お母さんは何も答えず、目を閉じてしまう。
「また明日来るからね」
そう言い残して、あたしは病室を出ていった。
お母さん……。
「大丈夫?」
廊下で看護師に声をかけられるけど、あたしはお辞儀をしてその場から走り去った。
病院を出ると、空から雨がポツポツと降り出していた。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)