「誕生日、おめでとっ」
うそ……。
あたしの誕生日、覚えていてくれたの……?
こんなの……うれしすぎて、どうしていいかわかんない。
橘くんがあたしのために。
こんな夜中から準備をしてくれていた。
「去年は咲下の誕生日まだ知らなくて、何もできなかったから。今年は絶対おめでとうって言いたかったんだ」
大きめのビンがそばに落ちていた。底のほうにはまだ貝殻が残っている。
きれいな貝殻ばかり……いつのまにこんなたくさん集めてたの……?
ちっとも知らなかった。
きっと、あたしに見つからないように、ずっと前からこっそり砂浜に来て、貝殻を集めていてくれたんだね。
あたしのために……いつから……?
あたし……こんなに幸せでいいのかな。
橘くんの気持ちがうれしくて、涙が頬を伝ってく。
「咲下」
優しい彼の声に、あたしは胸がぎゅっと締めつけられる。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
橘くん……。
「咲下と出逢えて……俺、ホント幸せ」
そう言って彼は、あたしを見つめて微笑んだ。
そんなことない。
橘くんと出逢えて幸せなのは、あたしのほうだよ。
橘くんの笑顔を見ていると、心が満たされていくんだよ。
そう言えたらいいのに……。
「咲下を生んでくれた咲下のお母さんにも、咲下と出逢わせてくれた神様にも感謝してる」
あたしも……。
あたしもだよ。
ねぇ、あたしは。
橘くんに出逢うために生まれてきた。
そう思ってもいい……?



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)