廊下を走っていくと、階段を下りていく咲下を見つけた。
「咲下っ!」
俺が叫ぶと、咲下は振り返った。
俺は慌てて階段を下りていき、階段の踊り場で立ち止まる咲下の前に立った。
「橘くん、どしたの?」
咲下は首を傾げて俺を見つめる。
「あ、あのさっ」
「ん?」
笑顔を見せる咲下に、ついつい俺も笑顔になってしまう。
「あの……もしよかったら俺と……」
そう俺が言いかけたとき、咲下のケータイが鳴った。
――ピリリリリ……。
ケータイの画面を見た咲下の顔からは笑顔が消えた。
「ごめん、橘くん!あたし行かないとっ」
「あ、うん。呼び止めてごめんな」
咲下は電話に出ながら、急いで階段を下りていった。
誰からの電話なんだろう……?
ケータイの画面を見た瞬間に表情が変わった。咲下から笑顔が消えた。
あんなに慌て急いでどこへ行くんだろう。
映画に誘えなかったことなんて、どうだっていい。
咲下のことが、気になって。
心配でたまらなかった。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)