そして、父親が死んでから1ヶ月後。
あたしは、赤色のキャリーバッグを持って家を出ていく。
外に出ると、向こうから彼女とのえるが歩いてくるのが見えた。
のえるがあたしの元に駆け寄ってくる。
『りんちゃん……っ』
勢いよく抱きついてきたのえるの頭を、あたしは優しく撫でた。
彼女はあたしの前に立つ。
『行くあては、あるの?』
彼女の言葉にあたしはうなずく。
あたしは、お母さんの妹……おばさんのところでしばらくの間、お世話になろうとしていた。
おばさんとは、お母さんのお葬式のとき以来会っていないけど、もう頼れる人は他にいなかった。
『のえる、最後だから。凜ちゃんにお別れの挨拶しなさい』
『……りんちゃん……バイバイ……』
そう小さな声で言って下を向くのえるを、あたしはぎゅっと抱きしめた。
彼女の言うとおり、会うのはきっと、これが最後。
のえるが幼くてよかった。
このまま何も知らずに生きていって欲しい。
あたしたちが、血の繋がった姉妹だと。
最後まで……せめて大人になるまでは、何も知らずに過ごして欲しい。
傷つかないで欲しい。
だからもう二度と、のえるとは逢わない。
でも……最後に会えてよかった。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)