その後、父親の葬儀が行われた。
葬儀の最中も、彼女は涙を流していた。
『迎えに来てくれたら、あなたともう一度やり直すつもりだったのに……』
死んだ父親に向かって、彼女はそう言っていた。
のえるは、あたしに抱きついたまま離れようとしなかった。
まだ幼いのえるには、死ぬということがどういうことなのか、完全には理解していないようだけど、
“パパ”と呼びかけても返事のない父親の姿を見て、のえるはあたしに抱きついたまま泣いていた。
のえるの小さな肩に手を置き、あたしはただ……父親の顔を見つめるだけだった。
お母さんが死んだときのように、泣きたいのに我慢しているわけではなかった。
あたしはいま、この瞬間も。
父親のことを憎み、恨んでいるのだろうか。
許せないんだろうか。
目を閉じて動かなくなった父親の姿を見つめながら、あの時のあたしは何を思っていただろう。
父親が死ぬ前……あたしと父親の最後の時間は、本当に最悪だった。
お酒を飲んでいた父親とケンカして言い争って、父親はあたしに酷い言葉を浴びせた。
あたしは声が出なくなり、お母さんのことで自分を責め、この世界から消えようとした。
あの日が父親との最後だった。
死んだ父親を目の前にしても。
父親との最後の別れの瞬間も。
一粒の涙も出てこなかった。
あたしはどこまで冷たい人間なんだろう――。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)