――キーンコーン、カーンコーン。
帰りのHRが終わり、下校時刻のチャイムが鳴り響く。
「橘っ」
くぼっちが俺の席に駆け寄ってきた。
くぼっちは俺の肩を抱き、俺はそのまま教室の隅へと連れて行かれる。
「なんだよ、くぼっち……」
「じゃんっ!前売り券もらったんだっ」
ブレザーのポケットから、2枚の映画の券を取り出したくぼっちは、俺に満面の笑みを見せる。
「これで咲下のこと、デートに誘えば?」
「くぼっち!……でも、彼女と行かなくていいの?」
「あと2枚余分にあるから心配すんなって。修学旅行の夜、邪魔したおわびってことで」
俺はくぼっちに勢いよく抱きついた。
「くぼっちー!神様ー!仏様ー!あんぱんまーん!」
「おーおー、何とでも呼びたまえ」
くぼっちの体を離し、俺はもらった映画の券をにぎりしめる。
咲下を映画に誘うなんて、考えてもみなかった。
でも断られたら……。
くぼっちの顔を見ると、親指を立てて「がんばれよっ」と笑顔で言われた。
よし!男ならここは行くしかないよな!
「さ……」
咲下の席を見ると、すでに咲下の姿はなかった。
俺は自分のカバンも持たずに、走って教室を出ていく。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)