俺がシャワーを浴びて出てくると、咲下は床に座って髪をドライヤーで乾かしていた。
「咲下」
俺の声に、彼女はドライヤーのスイッチをオフにして、俺の顔を見上げて何事もなかったかのように微笑む。
「ドライヤーかして?ここ座って?」
そう言って俺は、咲下からドライヤーを受け取り、彼女を俺のベッドの上に座らせた。
彼女の後ろに座った俺は、ドライヤーで彼女の長い髪を乾かしていく。
彼女の髪からシャンプーの匂いがふわりと香る。
こうして彼女の髪を乾かすのは、今日が初めてじゃない。
それでも、彼女の匂いや
サラサラな髪に触れるたび、ドキドキする。
……抱きしめたい。
こんなにも、キミのことが
言葉では表せないくらい愛しくて。
何より大切で。
ときどき、苦しくなるくらいに。
キミのことが――。
彼女の髪を乾かし終えて、ドライヤーを床の上に置いた。
「さっきは、ごめん」
そう言って俺は、彼女を後ろから抱きしめた。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)