――――――……
砂浜からペンションに戻ってきたのは、夜の9時半を過ぎたところだった。
くぼっちを含めた4人は客室に入り、俺と咲下も2階の奥にある自分たちの部屋に帰ってきた。
後ろにいた咲下が俺の服のすそをきゅっと掴む。
「ん?」
俺が振り返ると、咲下は浴室のほうを指差して首を傾げる。
「あー、先に入っていいよ」
頷いた咲下は、着替えを持って浴室に入っていく。少ししてからシャワーの水の音が聞こえ始めた。
「はぁ」
俺は床に座って、大きなため息をつく。
床に平積みにしていた本、調理師試験の参考書を開いた。
さっきからずっと、何モヤモヤしてんだろ……俺。
本を見ていても、全然内容が頭に入ってこない。
くぼっちめ……。
“イライラしてんだろ?それ、ヤキモチだから”
「ちげーしっ!」
“彼女が他の男と仲良くしてたら、ヤキモチやくのが普通だろ”
「あーもぉっ」
“咲下に重たいって思われたくないんだろ?”
俺はパンッと勢いよく参考書を閉じて床に放り投げた。
「くぼっちが余計なこと言うから……」
俺はその場に寝転がって目を閉じた。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)