「付き合ってない。俺が一方的に想ってるだけだし……」
「そもそも咲下って、ひとりでいるのが好きそうだもんな。恋とか興味なさそうじゃね?」
くぼっちの言葉を聞いて、俺は落ち込む。
「急にテンション下がったな。そんなに落ち込むなよ!なんか愛おしいな、恋するおまえって」
「うっせ、笑うな」
「でもさ、もしかしてふたりは内緒で付き合ってんのかもって思ってた。だって同じキーホルダー持ってんじゃん?」
「え?なんで知ってんの!?」
「たまたまなー。沖縄で買ったんだろ?いつのまに、ふたりおそろいで買ったんだよ?」
さっきから、なかなか鋭いくぼっちの観察力に驚きを隠せない。
「いや、修学旅行の夜に咲下に星砂のキーホルダー渡そうとしたら、咲下もすでに同じの買っててさ。それで咲下が自分のやつを俺にくれたっていう……」
「マジで!?同じキーホルダー買うとか、どんだけ奇跡だよ?」
「偶然な」
「へぇ~マジか。そんなことあんだな。もしかしてさぁ、おまえら運命の赤い糸で結ばれてんじゃねーの?」
一瞬、黙り込むふたり。無言のまま少しの間走り続けた。カラスの鳴き声が聞こえる。
「なんか言えよ、橘」
「なかなかロマンチックなこと言うね、くぼっち。さすが彼女いる人は違うわ」
「はいはい!ちょっといまのはクサすぎた!笑うなって……でもおまえめっちゃ嬉しそうな顔してんじゃん」
「え?そんなことねーし!」
くぼっちの言う、赤い糸で結ばれているかは、わからないけど。
あの夜、咲下と指きりをしたときのことを思い出した。
小指と小指をしっかり結んで、ふたりだけの約束をした。
そういえば願い事まだ考えてなかったな……。
「あっ!」
「なんだよ?橘」
「そういえばあの夜、くぼっちが電話かけてこなかったら……ったく」
「え?なに俺、ふたりの邪魔しちゃった?ごめんなさいねー」
ペロッと舌を出したくぼっちのお尻に、軽く蹴りを入れる。
「イテェ!」
「ハハッ」
ふざけていたら、再び先生に睨まれた。
俺たちは、わざとマジメな顔をして走り続ける。
「なぁ、くぼっち……」
「ん?」
「咲下さ、なんかあったのかな?」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)