コーヒーを飲み終えて、庭から自分の部屋に戻ると、
咲下がベッドの上で体を横向きにして眠っていた。
彼女の寝ているベッドの上に、俺は静かに座る。
「昼寝してんの……?」
そうポツリと言った俺は、彼女の寝顔を見つめて微笑む。
……よかった。
彼女が返事をしないってことは、ちゃんと寝てるってことだよな。
夜もこうして、ぐっすり眠れるといいのにな……。
開けっぱなしにしていた窓から、爽やかな風が入ってくる。
彼女の足元にあったタオルケットを、俺は彼女の体にかけた。
俺はベッドに座ったまま、彼女の髪をそっと撫でる。
――キミの声は
どんな声だったか
いまもちゃんと覚えてる。
もしもキミが
このまま、声を失ったままだとしても
俺が覚えてるから。
キミの声を
俺がずっと忘れないから。
眠っている彼女の手に、俺は自分の手を重ねた。
「……好きだよ」
そう呟いた俺は、彼女の頬にキスをした。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)