「声が出なくなるなんて……凜ちゃん、よっぽどつらいことがあったんだな」
医者が言うには、精神的な緊張状態が続いたことや、
何かショッキングな出来事が引き金になって、失声症になったのではないかということだった。
放っておいても数日から1週間くらいで治る人もいれば、
半年から1年以上かかる人もいたり、
治っても繰り返し発症したりすることもあるという。
大事なのは、声が出なくなった原因、精神的不安などを取り除くことだと言われた。
ただ彼女は、声が出なくなった原因はわからないと、紙に書いて医者に伝えていて、
医者から何を聞かれても、首を横に振るだけだった。
本当に原因がわからないのか、わかっていても話したくないのか、
それは咲下本人にしかわからないことだけど、
なんとなく俺は、いまはその話を彼女に聞いてはいけない気がしていた。
「早く治してあげたいけど、俺もどうしたらいいか……」
「琉生は、琉生のできることをしてあげればいいよ」
翔さんはそう言って優しく微笑む。
「誰かがそばにいてくれるって、心強いもんだよ。ひとりじゃ乗り越えられないことも、ふたりなら乗り越えられるかもしれない」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)