翔さんと俺は、ペンションの庭にある木製のガーデンベンチに座った。
翔さんの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、少しの間くつろぎの時間を過ごす。
「……凜ちゃん、眠れない日が多いのか?」
心配そうな表情で翔さんは俺に聞いた。
「夜中に何度も目が覚めるみたい……朝も絶対俺より先に起きてるし……」
「凜ちゃんがここに来てから、いろいろ手伝ってくれて助かってるよ。でも一生懸命すぎて無理してるんじゃないかって……いつも心配になる」
翔さんも、俺と同じように彼女のことを心配してくれていた。
「つらいときは、無理しないで部屋で休むように琉生からも言ってくれよ?」
「はい」
翔さんはコーヒーをひと口飲んだ。
「……凜ちゃんの声が出なくなった理由、琉生も聞いてないんだろ?」
俺は小さくうなずく。
「医者はなんて?このまえ凜ちゃんの病院に琉生も一緒についていったんだろ?」
「うん……。検査の結果、脳も声帯もどこも異常ないって。精神的なことが原因だって……」
咲下の声が出ないのは、ストレスや心的外傷が原因だと考えられる
心因性失声症だと言われた。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)