「中1の頃、いろいろあってさ。あの頃ホント苦しくて」
橘くんに何があったの……?
「真っ暗で、小さな狭い世界。その世界から逃げ出したかった。でも逃げ出せなくて……」
橘くんも……そんな気持ちになることがあったんだ……。
「あの頃は、その世界がすべてだと思ってた」
橘くんが苦しかったといった中1の頃、
その頃のあたしは、親友だと思っていた子に裏切られて、クラスメートたちからイジメを受けていた。
学校という小さな世界。
暗くて息苦しい世界から逃げ出したかった。
あの頃、そんなふうに考えていたのは、
この世界であたしだけじゃなかったんだ。
「“なんで俺だけが”って思ってた……あの日、咲下にぶつかってノートを拾うまでは」
あの日、道で出逢ったあの人は、やっぱり橘くんだったんだ。
「俺を真っ暗な世界から連れ出してくれたのは、咲下だったよ」
橘くんはあたしの瞳を見つめて微笑む。
「ありがとう……咲下」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)