「じゃあ……少し俺の話してもいいかな」
あたしは橘くんの肩にもたれたまま頷く。
「……俺、咲下にずっと前から伝えたかったことがあった」
伝えたかったこと……?
「あのノート……」
中学の頃に失くしたはずの、詩のノート。
それは橘くんが持っていて、数年もの時を経てあたしの元に返ってきた。
「ノートを拾ったときに見ちゃったんだ。ごめんな?」
あたしは小さく首を横に振る。
「“涙星”……覚えてる?」
あたしはうなずく。
あの詩だけは、忘れられなかった。
“涙星”
それは、あたしが初めて書いた詩だった。
「あの頃の俺を救ってくれたのは、咲下だったよ」
……どういうこと?
あたしは橘くんの顔を見つめる。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)