「疲れてんのかな……俺……」
ここに咲下がいるはずない。
咲下はあの街で
大切な人と一緒にいるんだから
……俺なんかに助けを求めるわけないじゃん。
だけど何で、こんなに心が落ちつかないんだろう。
俺はバルコニーから部屋の中に戻り、ジュースのペットボトルをベッドの上に放り投げ、部屋から出ていく。
階段を下りていくと、1階の奥のダイニングルームではオーナーの翔さんと友人の大輔さんがコーヒーを飲みながら楽しそうに話しているのが見えた。
俺が外に出ようと正面玄関のほうへ歩いていくと、外からドアが開いた。
外から帰ってきたのは、大輔さんの娘さん、愛空ちゃんだった。
愛空ちゃんとは、夕食の時間に話をしたのもあって少しだけ仲良くなった。
「あ、琉生くんっ」
俺を見てニッコリと笑う愛空ちゃん。
「愛空ちゃん、どっか行ってたの?」
「うん!砂浜をね、少し歩いてきたの。貝殻も拾ったよ?ほらっ」
そう言って愛空ちゃんの手のひらの上には、形の違う綺麗な貝殻が3つ乗っていた。
俺がさっきバルコニーから見た砂浜の人影は、愛空ちゃんだったのか。
「散歩に行くなら俺も誘ってくれればよかったのに。夜に女の子ひとりで出歩いたらお父さんも心配するんじゃ……」
「ほんの少しの時間だから大丈夫だよ。それにね……」
愛空ちゃんは目を伏せて小さな声で呟く。
「お母さんと話すときは、いつもひとりで砂浜に行くの」
「え……?お母さん……?」
愛空ちゃんは顔を上げて笑顔を見せる。
「ううんっ!なんでもないっ。あ、それに愛空の他にも、ひとりで歩いてた女の子いたよ?」
「え……?」
「声かけたけど無視されちゃった」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)