「付き合ってたのに、片想いって……彼女に他に好きな人がいたとかですか?」
「そう。でも、それを知ってても彼女と一緒にいたくてさ。懐かしいな」
「その彼女のこと、いまでも思い出したりします?」
「うん。思い出すよ。彼女に未練があるとかじゃなくてね。なんていうか……うん。あの頃のことは、一生忘れない大切な思い出だから」
「翔さん……」
――ガチャ……。
ペンションの玄関のドアが開き、お客さんがふたりやってきた。
翔さんがさっき電話で話していた人のようだ。
「いらっしゃい、大輔、愛空」
翔さんの友達、大輔(だいすけ)さんと、その娘さん愛空(あいく)ちゃんだ。
「久しぶり。元気だったか?翔」
「うん。おかげさまで。遠いのに遊びに来てくれてありがとな」
翔さんと大輔さんはガシッと抱き合う。
「翔くんっ」
ニコッと笑う愛空ちゃんの頭を、翔さんはポンポンと優しく叩いた。
「ふたりとも疲れただろ?部屋、案内するよ」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)