俺が1階にある浴室の掃除を終えて出てくると、フロントの電話で翔さんが話していた。
「うん、わかった。はいはーい、じゃあ待ってるから」
電話の相手はおそらく今夜、宿泊予定のお客さんからだと思うけど、やけにフレンドリーな話し方だった。
電話を切った翔さんが俺に気づく。
「もうすぐ着くお客さん、俺の友達なんだ。娘さんと一緒に毎年ここに遊びに来てくれるんだよ」
「あー、そうなんですね」
「その娘さんも春から高校生なんだよなぁ。俺も年とるわけだ」
「まだ若いじゃないっすか!オーナーは結婚とか考えないんですか?」
翔さんは見た目も含めてモテそうなのに、どうやらいまは付き合っている彼女もいないらしい。
「結婚ねぇ……。琉生は?彼女とかいるの?」
「いや、いないっす」
「高校の時とか好きな子いなかったのか?」
「いましたけど、俺の片想いで……。翔さんは高校生の頃、彼女とかいなかったんですか?」
そう俺が聞くと、翔さんは優しく微笑んで言った。
「……いたよ。付き合ってはいたけど、ずっと俺の片想いだったけどな」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)