あたしは駅のホームのベンチに座り、電車を待っていた。
1年前、17歳の冬。
この街を去ることを手紙で橘くんに告げたあたしを、彼は追いかけてきてくれた。
電車に乗ろうとするあたしの手を掴んで、彼はあたしに言ってくれた。
“またいつか……逢えるよな?”
その言葉にうなずくことが出来なかった。
本当は、そばにいたかった。
そばにいて欲しかった。
だけど、大切に想えば思うほど怖かった。
また大切な人を失うかもしれない。そんな不安を最後まで拭えなかった。
弱くて臆病なあたしは、君の手を離すことしかできなかった。
君を壊したくない。
暗い夜の中へ、一緒に堕ちて欲しいなんて言えなかった。
あたしは、手のひらの上の、星砂のキーホルダーを見つめる。
“君だけは、幸せでいて欲しい”
あの日の願いも
いまの願いも
あたしがこの星に願う想いは同じだった。
“咲下”
あたしの名前を呼んで優しく微笑む橘くんは、もうどこにもいない。
記憶の中の君は、いまも変わらず、あの頃のままだった。
橘くんに言えなかった想い。
声を失ったあたしには、この想いを口にすることはもう出来ないし、
君に届くこともないけれど、
最後に心の中で、記憶の中の笑顔の君に伝えます。
“優しい橘くんが好きでした”
“気づけば、誰よりも何よりも大切な人になっていました”
“そばにいたい、そばにいて欲しいと思ってしまいました”
“離れてからもずっと、橘くんに逢いたくて、逢いたくて……たまりませんでした”
溢れる愛しい想い。
君に言えなかった想いは、
涙へと変わってく。
星砂のキーホルダーをぎゅっと握りしめた手を目元にあて、静かに涙を流した。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)