あたしは北十字高校の前を通りかかる。
女子生徒ふたりが会話をしながら正門から出てきた。
懐かしいな、この制服。
「あーあ。先輩が卒業してもう1週間?先輩がいないと学校つまんないよぉ」
「フラれたのにまだ諦めてないんだ?」
「片想いでも先輩のこと見るだけで幸せだったのにな~」
「そのうちイイ男がまた現れるってぇ。元気出せっ」
後輩の女の子たちの会話が聞こえて、やっぱり卒業式はすでに終わっていることを知る。
あたしは、正門前から校舎を見つめた。
ここにもう彼はいない……。
2年3組……あの頃の思い出だけがここにある。
あたしが教室からいなくなると、橘くんはいつもあたしを探しに来てくれた。
他愛もない話をしたり、パンやお菓子を一緒に食べたり。
校舎のあちこちに、ふたりだけの時間があった。
ずっとこんな時間が続けばいいのに。
そう思わずにはいられなかった。
その時間がいつか終わってしまうことを、あたしは知っていたから。
短い時間だったけど、あたしにとっては、幸せで本当に大切な時間だった。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)