お墓をあとにしたあたしは、懐かしい街の景色の中を歩いた。
このバス停。
あの日の朝を思い出す。
“咲下?”
朝、学校に向かうバスに乗り遅れたあたしに、自転車に乗った橘くんが声をかけてくれた。
“後ろ、乗れば?”
自転車に初めてふたり乗りをして、橘くんの背中にドキドキした。
あの日からいままで、本当にいろんなことがあった。
目を閉じると、橘くんと一緒に過ごした時間が次々と浮かんでくる。
修学旅行の夜の星空。
お揃いの星砂のキーホルダーを交換して、橘くんの願いが叶うように心の中で祈ったこと。
お母さんの病気と余命を宣告された日、降りしきる雨の中、公園のベンチで泣いてたあたしに傘を差し出してくれたね。
放課後、病室に通う毎日の中、みるみる弱っていくお母さんが、あたしのことをわからなくなってしまった日も。
あたしは悲しくてどうしようもなくて。
橘くんは朝まで一緒にいてくれた。
震える小さなあたしの手を、ずっと握りしめていてくれた。
あの日から面会が終わる時間になると、病院の外でいつも橘くんが待っていてくれた。
あたしを自転車の後ろに乗せて、家まで送ってくれた。
お母さんの最期のときも、そばにいてくれた。
お母さんの前で泣かないと強く心に決めて、泣くのを我慢していたあたしに彼は言ってくれた。
“泣いていいんだよ”そう言ってあたしを抱きしめてくれた。
あたしを抱きしめながら、一緒に泣いてくれたね。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)