――――――……
駅近くにある銀行のATМの前にあたしは立っていた。
“カードと通帳、現金をお取りください”ATMのアナウンス。
機械から出てきた通帳の残高は0円。あたしは自分の通帳の全財産、15万円を引き出してお金を財布にしまった。
銀行を出て、すぐ前にあるお花屋さんに立ち寄る。
「いらっしゃいませーっ」
明るい女性の店員さんが奥から出てきて、あたしの前に立った。
「……っ」
あたしは首を手で押さえる。
やっぱり出ない。口から出てくるのは息だけだ。
声が出ないのに、花なんてどうやって買うの?
「どうされましたか?ご気分でも……」
あたしは首を振り、店を去ろうとする。
そのとき目に入った綺麗な白いユリの花。
あたしは立ち止まる。
ユリの花……。お母さんが好きだった花だったのを思い出した。
花束になっている白いユリを指差して、あたしは店員さんを見る。
「ユリの花束ですね?ありがとうございます」
そう言って店員さんは、優しくあたしに微笑んだ。
白いユリの花束を買ってお花屋さんを出たあたしは、その足で駅へと向かった。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)