震える右手を抑えるように、両手で包丁の柄を強く握りしめた。
「お母さんが病気になったのも……お母さんが死んじゃったのも……ぜんぶお父さんのせいよ……」
「何する気だ?凜。止めなさい。包丁を放しなさい」
あたしは父親に包丁の先を向けたまま、首を横に振った。
「なんでお母さんが死ななくちゃならないの……?お母さんは何も悪くないじゃない」
この世界は狂ってる。
イジメだってそう。
イジメられた方は、心も体も深い傷を負うのに、
イジメた人間たちは何も苦しみもせずに平然と笑って暮らしてる。
それどころか、周りに訴えてもイジメられる方が悪いとか言う人間まで出てくる。
理由があれば、人を傷つけても許されるの?
人を傷つけても許される理由って一体なに?
お父さんはお母さんを裏切って傷つけた。
悪いのはお父さんなのに、どうしてお母さんばかりつらい目に遭わなきゃならないの?
神様なんていない。どこにもいない。
人は生まれたときから平等だなんて、そんなの嘘だ。
「お母さんが死んだのは、アンタのせいよっ」
こんな狂った世界、終わらせる。
お母さんと自分のために。
包丁を強くぎゅっと握りしめて父親を睨みつけた。
「バカなことは止めるんだ、凜……」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)