逢いたい夜は、涙星に君を想うから。




普段から家の中は、のえるの母親が綺麗に片付けていた。



いま目の前にある光景は、まるで違う部屋のよう。



何かあったことは間違いない。



床には割れたお皿や、お皿に盛られていたであろう料理、包丁までが落ちていた。



部屋の隅に置いてあった観葉植物の鉢も横に倒れて土が床の上にこぼれている。



こんな状態で片付けることもせずに、父親はリビングの明かりを消して、ソファーに座りテレビを見ていた。



ソファーの前にあるテーブルの上には、ウイスキーのボトルと氷の入ったグラス。



落ちついた様子でお酒を飲みながらテレビを見ていたことから、家の中に強盗が押し入ったとかではなさそう。



「何があったの……?」



あたしが聞いても、父親はテレビの画面を見つめたまま黙っていた。



あたしの顔を見もしない。



父親の様子も普段とどこか違う雰囲気を感じた。



「とにかくこれ片付けないと……。あの人はどこ?のえるの部屋?」



あたしは床にしゃがみ込んで、割れたお皿の破片を手で拾い集める。



父親はグラスにウイスキーを注ぎ、それを一気に飲み干した。



「……のえるを連れて出て行った」



その言葉に、破片を集めていた手を止める。



「出て行ったって……え?」



今朝、あたしが家を出ていく時には別に普段と変わった様子はなかった。