『お母さんっ!待って……!どこなの……!?』
走っても走っても、お母さんの姿はどこにも見えない。
また真っ暗になってしまった。
あたしはひとりぼっち……。
『お母さん―――っ!』
大声で叫んだあたしは、その場にしゃがみ込む。
『お母さん……あたしを置いていかないで……』
――ピッ、ピッ、ピッ……。
今度は、どこからか音が聞こえる。
これ、何の音……?
聞き覚えがある音なのに思い出せない。
『お母さん……よく頑張ったね』
……いま……あたしの声が聞こえた。
あぁ、そっか……。
今度は、あの日の夢を見てるんだ。
――ピッ、ピッピッ……。
この音は、心電図の音。
記憶が鮮明に甦ってくる。
そう、あの日は星の見えない夜だった。
薄暗い病室で、お母さんは最期の時を迎えた。
――ピッ、ピッ……ピー――――ッ。
目を閉じて動かなくなったお母さんの痩せた頬に、あたしは震える手を伸ばしたんだ。
泣かない。泣いちゃダメ。
あの時は必死に、自分の胸に言い聞かせてた。
泣くな、泣くな……っ。
ねぇ、お母さん――。
お母さんの顔を見つめたまま、心の中でお母さんに問いかけた。
寂しい……?悲しい……?
お母さん……ごめんね。
本当にごめん――。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)