あたしを強く抱きしめる陽太の腕が、少しだけ緩んだ瞬間、
あたしは陽太の体を離した。
顔を上げたあたしは、陽太の瞳を見つめる。
出逢った頃から変わらない。
陽太の曇りのない澄みきった瞳が、あたしは好きだった。
「……そんな真剣な顔で……冗談やめてよねっ」
泣きそうになるのを我慢して笑いながら言うと、陽太はあたしを見つめたまま答えた。
「冗談やないよ」
「そんなこと言われても……困る……」
あたしの言葉に、陽太は少し悲しげに微笑んだ。
あたしから視線をはずした陽太は、柵にもたれかかって遠くの景色を見つめた。
少しの沈黙のあと、遠くを見つめたままの陽太が言った。
「なぁ……凜は、いっつも俺の前で笑っとったよな」
「だって、陽太といると楽しいもん」
陽太の横顔を見つめる。
「笑っとる凜を見て、俺はずっと考えとった」
「……何を?」
「いままで俺は……たったの一度でも心から笑っとる凜を見たんかなって……」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)