それから数時間後、近所の犬が吠えている声で、あたしはハッと目を覚ました。
どうやら宿題をしている最中に、うたたねをしてしまったみたい。
そのとき、下から玄関のドアが開いた音が聞こえる。
出掛けていた父親たちが家に帰ってきたらしい。
あたしは大きなあくびをしながら、教科書とノートに目を向ける。
階段を上ってくる足音が聞こえ、すぐにあたしの部屋のドアが開いた。
――ガチャ……。
振り返ると、そこにいたのは父親だった。
父親は部屋の中をキョロキョロと見回す。
様子がなんか……少し変……。
「凜、のえるは?」
「……え?下にいない?」
「いないぞ」
「そんなはずは……」
そのとき、慌てた様子でのえるの母親が部屋にやってくる。
「あの子、家のどこにもいないわ」
のえるが……いない……?
「ちょっと家の近く探してくる」
そう言って父親は部屋を出ていき、急いで階段を下りていった。
部屋には、あたしと彼女だけが残った。
彼女はあたしの元に寄ってきて、あたしの肩を掴む。
「いなくなったことにも気づかないなんて、いったい何してたの?」
怒りに満ちた彼女の表情から、あたしは顔を背けた。
「黙ってないで答えなさいっ」
どこに行ったの……?のえる……。
「答えなさいって言ってるでしょっ!?」
あたしが顔を上げ彼女の目を見た瞬間、
――パシンッ
あたしは左頬を思い切りビンタされた。
「あの子に何かあったら、こんなもんじゃ済まないわよ」
そう言って彼女は、あたしの部屋を出ていった。
ジンジン痛む頬を手で押さえた。
なんでこんなことに……?
のえる……いったい、どこにいったの……?



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)