「嘘なんかついてないもん。本当のこと言ってるだけ」



陽太はあたしの腕を掴んで、教室を出て行く。そのまま廊下の隅へと連れていかれた。



「俺が凜の嘘に気づかんとでも思っとるん?」



「陽太……」



「いままで凜が嘘ついとっても、俺の前でムリして笑うてても、気づかんフリして見過ごしてきたんは、何でやと思う?」



「ちょっと、どーしたの?陽太……」



「凜が自分から話してくれんの待っとった。ずっと待っとった……」



陽太にぎゅっと強く掴まれた手首。あたしはもう一方の手で、陽太の手をほどいた。



「陽太が言ったんじゃん。答えたくなかったらムリして答えなくていいって……。陽太は人の過去は気にしないって言ったじゃん」



「言うたよ。過去は気にせん、大切なんは今やって言うた。凜が過去やなくて、今つらそうやから聞いとる」



陽太はいまだにあたしの過去も、あたしがどんな人とどんな生活をしているかも、何も知らない。



陽太には、何も知られたくなかった。



陽太の前では、あたしも明るく笑顔でいたかったから。



陽太の前では、ほんの一瞬でもいい。つらいことを忘れたかった。



「誰にやられたん?」



「自分でやったって言ってるじゃん!勝手に勘違いしないでよね」



「……凜に、俺の気持ちがわかる?」



つらそうな顔をあたしから背けた陽太。