「嘘なんかついてないもん。本当のこと言ってるだけ」
陽太はあたしの腕を掴んで、教室を出て行く。そのまま廊下の隅へと連れていかれた。
「俺が凜の嘘に気づかんとでも思っとるん?」
「陽太……」
「いままで凜が嘘ついとっても、俺の前でムリして笑うてても、気づかんフリして見過ごしてきたんは、何でやと思う?」
「ちょっと、どーしたの?陽太……」
「凜が自分から話してくれんの待っとった。ずっと待っとった……」
陽太にぎゅっと強く掴まれた手首。あたしはもう一方の手で、陽太の手をほどいた。
「陽太が言ったんじゃん。答えたくなかったらムリして答えなくていいって……。陽太は人の過去は気にしないって言ったじゃん」
「言うたよ。過去は気にせん、大切なんは今やって言うた。凜が過去やなくて、今つらそうやから聞いとる」
陽太はいまだにあたしの過去も、あたしがどんな人とどんな生活をしているかも、何も知らない。
陽太には、何も知られたくなかった。
陽太の前では、あたしも明るく笑顔でいたかったから。
陽太の前では、ほんの一瞬でもいい。つらいことを忘れたかった。
「誰にやられたん?」
「自分でやったって言ってるじゃん!勝手に勘違いしないでよね」
「……凜に、俺の気持ちがわかる?」
つらそうな顔をあたしから背けた陽太。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)