「本当の気持ち、なんで隠すん?」



「別に、隠してなんかないよ?」



陽葵ちゃんの口から橘くんの名前を聞いた瞬間、あたしは何も考えられなくなった。



気づいたら走り出してた。夢中で走ってた。



会いたい……



その思いしかなかった。



でも、これでよかったのかもしれない。



あの日、橘くんの手を離した理由を忘れちゃいけない。



橘くんの顔を見れただけで、それで十分だよ。



橘くんの声を聞いたり、橘くんの笑った顔を見たりしたら。



きっと、今よりもっと。



つらくなってたかもしれない……。



そばにいたいって。もう離れたくないって……。



「凜、俺は……」



「陽太には……あたしの気持ち、わかんないと思う……」



あたしの言葉に、陽太は少し悲しげに微笑んだ。



「ごめん。冷たい言い方したよね」



「ええよ……。凜の気持ち、俺にはわからんけん」



そう言って陽太は、座ったままのあたしを抱きしめた。



陽太の腕の中は、あったかい。



陽太の前で泣きたくないのに。



下唇を噛みしめると、静かに涙が頬を伝った。



「陽太……ひとりにしてもらえない?」



溢れてくる涙に、声が震える。



もう限界なの。



涙を止められない。



「やけど、凜……」



「ひとりになりたいの……」



だけど、陽太はあたしを離してはくれなかった。



あたしを抱きしめたまま、陽太はあたしの頭の後ろを優しくポンポンと叩く。



「いつもそばにおって、こんな近くにおっても……」



「……っ」



「遠くて見えんよ……凜のこと……」