「ハァ、ハァっ……何しよるん!?危ないやろっ!」
後ろから抱き締めてあたしを動かなくさせたのは、陽太だった。
「陽太……」
陽太が追いかけてきてたことにも気付かなかったくらい、あたしは夢中だった。
――カンカンカンカン……。
「離してっ!陽太っ」
駅はもうすぐそこなのに。
もう目の前なのに。
「行かなきゃ……」
「アホっ!死ぬに決まっとるやろ!」
だって、いま行かなきゃ間に合わないかもしれない。
橘くんが……行っちゃう。
会えないまま、行っちゃうよ。
あたしを抱きしめる陽太の腕は力が強くて、どんなにもがいても、ほどくことが出来なかった。
――カンカンカンカン……。
踏切の音を聞きながら、その場から動けずにいる。
瞳に涙が溢れて、夏の生温い風が、あたしの髪をなびかせた。
そのとき、すぐそばの駅から発車した電車が、ゆっくりとスピードを上げながら、あたしの目の前を通り過ぎていく……。
あたしは陽太に後ろから抱きしめられたまま、その電車を見つめていた。
早く通り過ぎて……。
踏切、お願い……早く開いて……。
すると、そのとき……。
「……橘……くん……」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)