あたしは駅に向かって走った。
「ハァ、ハァ……っ」
息が苦しくても、足がもつれて転びそうになっても。
星砂のキーホルダーを手に握りしめて、必死に走った。
橘くん……待って……。
お願い……まだそこにいて。
行かないで……!
数十メートル先に踏切が見えてきた。
あの踏切は、遮断機が下りたらすぐには開かない。
駅までもうすぐ。
だからその前に……その前に早く……踏切を渡らなきゃ。
――カンカンカンカン……。
大きな音と共に、踏切の遮断機がゆっくりと下り始めた。
踏切まで、あと少し。
「ハァ、ハァッ」
額に汗をかきながら、全力で走っていく。
いま踏切を渡らなきゃ、きっと橘くんには会えない。
会いたい……。
行かないで。お願い。
ひとり涙を流して、夜を過ごしてきた。
もう二度と会えないとわかっていても、それでも会いたかった。
橘くんに……会いたかった……。
踏切まであと数メートルのところで、遮断機は完全に下りてしまった。
「ハァ……っ……ハァ……」
いま行かなきゃ、絶対に間に合わない。
橘くんが行っちゃう。
渡らなきゃ……!
――カンカンカンカン……。
踏切を渡るため、下りた遮断機をくぐろうと体を曲げた瞬間、
あたしは後ろから誰かに抱き止められた。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)