陽太と一緒に正門へ向かうと、陽葵ちゃんがひとりで立っていた。
「ふたりとも遅い~っ」
「ごめん、陽葵ちゃん」
「誰もおらんけど、どこ行ったん?」
陽太とあたしは、キョロキョロと辺りを見まわす。
「もうっ!用事思い出した言うて、帰ってしもうたんよ」
帰った……?
「ねぇ、陽葵ちゃん。ホントにその人、あたしを待ってるって言ったの?誰とも待ち合わせなんかしてないけど……」
陽葵ちゃんはニコッと笑って言った。
「凜ちゃんと、前の学校で同じクラスやったって」
「えっ……」
陽葵ちゃんの言葉を聞いた瞬間、頭の中に真っ先に浮かんだのは彼だった。
違うよね?
ううん、そんなはずない……。
だって……あたしがこの街にいることも、この学校に通ってることも、
橘くんが知ってるはずないもん。
隣にいた陽太があたしの顔を見たあと、陽葵ちゃんに聞いた。
「陽葵……その人の名前は聞いたん?」
「うん」
そんなはず……ないよね……?
「橘くんていう男の子やっ」
陽葵ちゃんの口からその名前を聞いた瞬間、あたしの胸はドクンッと大きな音をたてた。
「うそ……でしょ……?」
「うそやないよ。ほんま」
うそ……だって、そんなはずは……。
ふたりをその場に残して、あたしは走り出す。
「待てやっ!凜っ!」
後ろから陽太の叫んだ声が聞こえたけど、あたしは振り返らずに夢中で走っていく。
なんで……?
なんで橘くんが……?
どうやって、あたしがここの高校に通ってることわかったの?
ねぇ……どうして。
どうして、あたしに会いに来てくれたの……?
胸が苦しくて、涙が溢れてくる。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)