交差点の横断歩道の前、信号が赤になり俺は立ち止まる。
空を見上げて、大きく息を吐き出した。
あの日から立ち止まったままだったのは、俺だけで。
咲下は、この街で。新しい出逢いの中で。
ちゃんと今を生きてた。
俺の知らない咲下の時間。
それは、これからも増えていく。
咲下が笑って過ごしてるなら……本当によかった……。
キミが抱えてる悲しみや苦しみは、きっと、そばにいる人が癒してくれる。
俺は何もできなかったから。
そばにいることさえもできなくて、どんなに想っていても無力で。
でも、この想いを終わらせたくなくて、“いつか”を信じようとした。
いまは離れていても、きっと、いつか迎えに行く……それからは同じ道を歩きたい……って。
勝手に心の中で信じてた。
初めから俺の片想いだって、わかってたはずなのに。
それでもやっぱり、答えを知って。
これで本当に終わると思うと……つらいな。
想いを告げることも、ノートのことも何も言えずに。
この恋は終わっていくんだな……。
目を閉じると、咲下の顔が浮かんだ。
微笑むわけでもなく、泣いてるわけでもない、彼女の顔……。
目を開けると、青い空に消えていった。
「幸せにな……」
交差点の信号が青になり、俺は歩き出す。
今度こそ、本当にサヨナラだ……。
――高3の夏。
想い続けた初恋は、静かに終わってゆく。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)