「凜ちゃん、電話出んねぇ」
そう言って彼女は耳からケータイを離した。
「そっか、ありがと。もう少しここで待ってみるよ」
「お兄ちゃんに電話してみる。凜ちゃんとお兄ちゃん、同じクラスやけん」
「え?あぁ……そうなんだ?」
お兄ちゃん……?
ということは、この陽葵って子は年下だよな?
咲下に年下の友達がいるなんて、少し意外だった。
前の学校での咲下は、ひとりで過ごしていることが多かった。クラスメートから話しかけられれば普通に話してはいたけど、特別仲が良い女友達もいないようだった。
俺には、咲下がひとりでいることを自ら望んでいるようにも見えた。
前の学校で、咲下のことを下の名前で呼んでいる女子は、たぶん誰もいなかった気がする。
でも、この子は咲下のことを“凜ちゃん”と呼んでいる。
だからこの子とは、本当に親しいのかもしれない。
咲下は、年下のこの子と、どんなふうに仲良くなったんだろう?
でも咲下が前の学校の時のように、ひとりでいることを望んでいなくてよかった。そばに友達がいてくれてよかった。
少しだけ安心した。
「……あ、お兄ちゃん?いま、どこにおる?」
電話が繋がったようだ。
「教室に凜ちゃんおらん?正門に凜ちゃんのこと待っとる人がおるんよ。うん、はーい」
彼女は電話を切って俺にニコッと笑った。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)