俺は駅のホームに立ち、電車が来るのを待った。
手に握りしめている切符を見つめる。
「ずいぶん、遠くの街に行っちゃったんだな……」
俺は思い出していた。
半年前、粉雪が舞う中、
咲下がこの街を去っていった日のことを――。
『いつかまた……逢えるよな?』
電車に乗り込もうとした咲下の手を掴んで聞いたけど、彼女はうつむいて首を小さく横に振った。
『……元気でね』
そう小さな声で言った咲下は、俺の手をほどいて電車に乗り込んだ。
ドアは閉まり、ゆっくりと電車が動き出して……
『咲下っ!』
どんなに叫んでも、どんなに名前を呼んでも。
咲下は背を向けたまま、俺の方に振り返ることはなかった。
ドア越しに咲下の後ろ姿を見つめたまま、俺は電車を追いかけてホームの端まで必死に走った。
『咲下ぁ―――――っ!』
粉雪が舞い降りたあの日、言えなかった想い。
あれから半年の月日が流れたけど、俺の気持ちは変わっていない。
“まもなく3番線に電車がまいります。白線の内側に下がってお待ちください……”
出逢った日……あのノートを拾った日からずっと、忘れられなかった。
再会して、この想いが恋だったんだと気づいた。
まだ子供の俺だけど、何もできない俺だけど。
いつか必ず迎えにいく。
咲下を守れる男になって、それから先はずっと咲下を幸せにする。
だからそれまで、待っていて欲しい。
半年前、ここで言えなかった想いを、
今度こそ、伝えるんだ。
どんな答えが待っていたとしても。
もう覚悟は決めた。
咲下、キミに会いに行く――。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)