くぼっちが俺の顔をジッと見つめる。
「会いたいだろ……?」
「聞くなよ。それに……いまの俺じゃ咲下のために何もできないし……」
咲下のそばにいることさえできない。
いまの俺には何もできないのに、咲下に気持ちを伝えることなんてできない。
咲下がこの街を去るとき、そう思った。
「前にも言ったけどさ、このままほっといたら他の男に取られんぞ?」
くぼっちの言葉に、俺は大きくため息をつく。
「とりあえず咲下に会ってさ、元気かどうかだけでも確かめてこいよ」
「くぼっち……」
「もしおまえが、咲下のことホントに離したくないと思うんなら……会って、おまえの気持ち伝えて、いつか必ず迎えに行くって約束してこいよ」
咲下のこと
ホントに離したくないと思うんなら……
「誰にも渡したくない」
「橘……!」
なにもできない俺だけど、必ず咲下を守れる男になる。
会えなくなってから、その想いはもっと強くなった。
遠くにいても、離したくない……。
咲下は、誰にも渡さない……!
「よし!橘が決意したから、あと問題は咲下の居場所だな」
「大問題な」
「いまどこにいるのかねー?琉生くんの愛おしい咲下さんは……」
くぼっちも俺も机の上で頬杖をつき、窓の外を見つめる。
少しの沈黙のあと、突然くぼっちが大きな声で叫んだ。
「あ――――っ!」
「なんだよ?急に大きな声出して……」
「忘れてたっ!もうひとりいたわ」
「え?」
「俺としたことがぁ~。あー、なんでもっと早く気付かなかったんだろー」
悔しがっているくぼっちの表情を見て、俺もハッと気づく。
もしかしたら、いや、きっと……。
あの人なら咲下のいま住んでる場所を知ってるかもしれない。
俺たちはお互いの顔を指差して、同時に声を発した。
「「2年ん時の担任っ!」」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)