――――――……
7月に入り、梅雨明けして晴れた青空が続いている毎日。
日差しも強くなり、学校のグラウンドの隅には向日葵の花も咲き始めた。
高校3年の夏。
期末テストも終わり、夏休みまではあと2週間ほど。
――キーンコーン、カーンコーン。
放課後、下校時刻のチャイムが校内に鳴り響く。
俺がカバンを持って教室を出ようとすると、後ろからくぼっちの声が聞こえた。
「橘ーっ」
俺が振り向くと、教卓の前に立っていたくぼっちは、両手に黒板消しを持ってニコッと笑う。
「手伝ってくれよぉ」
そっか。
今日の日直、くぼっちだったっけ。
「別にいいけど」
俺は自分の席へ戻り、机の上にカバンを置く。
「俺、なにやればいい?バケツに水入れてこよっか?」
俺がくぼっちのほうへ歩いていくと、くぼっちは俺を見て微笑んだ。
「お願いできますー?琉生くん、優しいのねんっ」
そう言ってくぼっちは、チョークの粉がついた黒板消しで思いっきり俺のケツを叩きやがった。
「うわっ。おーまーえー!」
やりやがった。最悪。
ズボンの後ろは、チョークの粉で汚れた。
「ごめん。わ・ざ・と」
満面の笑みのくぼっちを俺はギロッと睨みつけた。
「俺、帰りまーす」
「わー!うそじゃん。帰んないで?ね?調子に乗り過ぎました、ごめんなさい!ホントごめんなさい」
俺は教室の隅に置いてあったブリキのバケツを手に取る。
「んじゃ、バケツに水汲んでくるわ」
――ゴンッ。
「イッタぁ……」
俺はしゃがんでたくぼっちの頭にわざとバケツをぶつけて、教室を出ていった。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)