同じ教室にいる咲下を、気づけば目で追いかけていた。
ふとしたとき、いつのまにか咲下のことを考えてる自分がいた。
咲下を想う気持ちは、
あの日よりもずっと、ずっと……大きくなっていった。
話しかけるのも、ドキドキして緊張するし。
咲下は誰かといるよりも、ひとりでいるのが好きみたいだったし。
仲良くなりたいのに、もっと知りたいと思うのに、
“おはよ”とか“また明日な”とか……それくらいしか言えなくて。
情けないけど、大切に想えば想うほど近づけなかった。
でもある朝、バス停でバスに乗り遅れた咲下を見つけた。
それからすぐに修学旅行があって、ふたりきりで沖縄の星空を見た。
いつか、告白するつもりだった。
そのときに、あの日、落としていった咲下のノートも返すつもりだった。
助けてくれて、ありがとうって……彼女に言うつもりだった。
でも修学旅行から帰ってきてすぐに、咲下の母親が入院して、
咲下のことが心配で、俺は告白どころじゃなかったけど、咲下を支えてあげたいって思った。
あのとき、俺を助けてくれた咲下を。
今度は俺が助けたいって。
守りたいって。
涙を流す咲下の手を握って、そう誓ったはずなのに……。
結局、俺は……何も出来なかった。
母親を亡くして、咲下はこの街を離れていってしまった。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)