“なんで俺だけが”
そう心の中で、繰り返していた日々。
終わらない世界。
逃げられない世界。
そんな世界でも……生きていく。
そう思えたのは、あの日、彼女に出逢ったからだ。
それはまるで、夜が明けていくように。
真っ暗な世界に光が差した。
「俺が中2になってすぐ、親父は酒の飲み過ぎで体壊して入院したんだ」
「親父さん、入院して少しは反省したの?」
「たぶんな……退院してからは酒も飲まなくなって、暴力振るわれることもなくなった……」
それを聞いたくぼっちは、深く息を吐き出した。
「ハァ……よかったな……本当」
親父が退院したあと、ある晩のことだった。
布団の上に横になった親父の元に、俺は水の入ったコップを持っていった。
『親父?ちゃんと薬飲んでから寝ろよ?』
親父はゆっくりと起き上がり、布団の上に座って俺を見つめた。
『俺に引き取られたせいで、おまえにはずいぶんひどいことしたな』
『……親父……もういいよ』
親父は俺に向かって頭を下げた。
『すまなかった……琉生……』
親父は顔を上げて、俺を真っ直ぐに見つめた。
『母親のとこに……行くか?』
親父がそんなことを言ったのは、初めてだった。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)