フラッと立ち上がった親父は、キッチンにいた俺に思い切り殴りかかってきた。
――ガシッ。
頬を殴られただけなのに、昨日やられた体中のアザに痛みが走った。
殴られた頬を手で押さえ、親父を睨みつけた。
『なんだぁ?その目はよぉ。あ?』
親父は俺の胸ぐらを掴み、もう一度俺の顔を殴った。
――ガシッ。
俺は殴られた勢いでキッチンの壁にぶち当たり、そのまま床に座り込んだ。
親父は俺の前にしゃがみ込み、両手で俺の首を絞める。
『苦……し……っ』
俺は床に落ちていた自分のケータイを、親父の顔に向かって投げつけた。
――ガンッ。
『うっ……』
俺の首から親父の手が離れた瞬間、俺は親父の体を突き飛ばした。
親父が床にあおむけで倒れ、俺は立ち上がってキッチンにあった包丁を握りしめた。
『ハァ、ハァ……もうやめてくれよ、親父……』
床に倒れ込んだ親父を見て、俺は思った。
こんな生活がいつまで続くんだろう。
いや、終わらない……きっと。
俺が終わらせなければ、なにも終わらない。
もう……限界だ。
俺は包丁を握ったまま、床に倒れている親父の上に跨って、親父の目を見つめた。
『親父……もう……疲れたよ俺……』
声が震えて、涙がこぼれた。
これで終わる。
やっと……つらい日々が終わる。
『……殺……せ……っ』
そう言って親父は目を閉じた。
『うわぁぁぁ―――っ』
叫びながら俺は、包丁を高く振り上げた。
――ザクッ。
俺は親父の頭の横、床に包丁を突き刺した。
親父の顔の上に、俺の涙がポタポタと落ちていく――。
「……あの日、俺は親父を殺そうとした。でも殺せなかった……」



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)