あたしは部屋のドアを開けたまま、中に入る。
西側の窓から差しこむ夕日が、部屋の中をオレンジ色に染めていた。
ベッドの上、彼はうつぶせで、顔だけ横を向いている。
あたしはベッドの横に座り、陽太の寝顔を見つめた。
ホントだ。お酒くさい。
いつのまにビールなんか飲んでたんだろ。
「子供はお酒を飲んじゃいけませんよ」
あたしは軽く陽太のおでこにデコピンをした。
無邪気な寝顔。可愛い……。
ホント、憎めない人。
「陽太」
呼びかけて見るけど、反応はない。
「……すーっ」
聞こえるのは、寝息だけ。
ビール飲んだせい?どんだけ飲んだのよ?
爆睡じゃん。
「陽太ってば。下で陽葵ちゃんが呼んでるよ?」
何度声をかけても、全く起きる気配はない。
「もぉ~陽太ってばぁ」
あたしはうつぶせに寝ている陽太の肩を掴んで、体をユサユサと揺らす。
「陽太~起きろ~」
すると、ようやく陽太は目をうっすらと開けた。
「……んー……凜……?」
「陽太、あたしもう帰……」
陽太の大きな右手が、あたしの後頭部を掴んだ。
そのまま自分のほうに引き寄せて、
陽太はあたしに……キスをした――。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)