「陽葵ちゃんの言う、“たくさん傷ついて生きてきた人”も“優しい人”っていうのは……傷ついた分だけ人の痛みをわかってあげられるからとか、そうゆうこと……?」
よく聞く言葉だ。
傷ついた分だけ、誰かの痛みをわかってあげられる。
だから傷ついた分だけ優しくなれる。
傷ついたことは決して無駄なんかじゃないと……。
でも、あたしは思う。
傷ついた分だけ、人に優しくなれるなんて……そんなの嘘だ。
傷ついた分だけ、あたしは臆病になった。
自分が傷つくのが怖くて、誰かに優しくする余裕なんてなかった。
痛みを理解することと、優しくすることは違う。
少なくともあたしは、
傷ついた分だけ、誰かに優しくするなんて絶対にできなかった。
「たくさん傷ついて生きてきた人は、人の痛みがわかるけんね。やけど、それだけやないんやない?」
「え?」
「傷ついた人が誰かに優しくできるんは、その傷をほんの少しでも癒せたからやないんかなぁ?やけん、本当の優しさを知ってる人やと思う」
陽葵ちゃんの言葉で、前にバスケをした公園で陽太が言っていた言葉を思い出した。
“傷つけるんも人やけど、支えてくれるんも人やけん”
そう。
気持ちを理解してあげることと、優しくできることは違う。
傷つくたびに、あたしは臆病になって。
誰かに優しくなんか出来なかった。
陽葵ちゃんが言うとおり、
たくさん傷ついて生きてきた人が優しくできるのは、人の痛みがわかるだけじゃない。
その傷をほんの少しでも癒すことができたからなの……?
そういう人は、本当の優しさを知ってる。
そういえば、彼も。
あたしの知ってる優しい人も。
橘くんもそうだった……。
“人に……言いたくないことだってあるでしょ?”
“いまはもう平気”
沖縄の夜、橘くんと話したことを思い出した。
“いまはもう平気”と言って、つらい過去を笑って話す彼を。
あたしは橘くんのすべてを知ってるわけじゃない。
だけど、あのとき……あたしは感じた。
きっと彼もたくさん傷ついて生きてきたんだろうなって……。
だからあたしは、自分のことを話せた。
彼ならすべてを言葉にしなくても、わかってくれるような……そんな気がした。
そして彼は、あたしに優しくしてくれた。
優しさは自分から与えるだけがすべてじゃない。
本当の優しさは、相手の求めていることを感じとること。
彼の優しさは……
あたしの心の声をいつだって聞いて、感じとってくれたことだった。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)